#8 妊娠中の腰痛はすべて同じではない|腰痛と骨盤帯痛を理学療法士が整理

妊娠中の腰痛と骨盤帯痛を示す妊婦

この記事は5分で読めます。

妊娠中に腰やお尻が痛くなると、「お腹が大きくなったから仕方ない」と考えがちです。

もちろん、妊娠に伴う身体の変化は関係します。ただ、整形外科領域で働く理学療法士として最初にお伝えしたいのは、妊娠中の“腰痛”が、すべて同じ場所・同じ仕組みで起きているわけではないということです。

研究では、主に「妊娠関連腰痛」と「骨盤帯痛」を分けて考えます。両方が同時に起こることもあり、まとめて「腰骨盤部痛」と呼ばれる場合もあります。1

今回は、まず「どこに、どんな痛みが起こるのか」を整理します。対策や骨盤ベルトについては、次の記事で詳しく取り上げます。

目次

妊娠中の腰痛は、大きく2つに分けて考える

1.腰そのものに近い「妊娠関連腰痛」

痛みの中心が、背中の下部から腰にあるタイプです。長く座る、立ち続ける、前かがみになるといった動作でつらくなることがあります。

妊娠していない時にみられる非特異的腰痛と似た症状を示すこともあり、腰の筋肉を押すと痛むケースもあります。1

2.お尻や恥骨まわりに出る「骨盤帯痛」

骨盤帯痛は、主に左右のお尻のくぼみ付近、仙腸関節の周辺、あるいは骨盤前方の恥骨結合付近に生じる痛みです。太ももの後ろ側へ広がることもあります。2

特徴が出やすいのは、次のような動作です。

  • 歩く
  • 階段を上り下りする
  • 片脚で立って着替える
  • 寝返りを打つ
  • 車の乗り降りをする

これらは、左右の脚にかかる負荷が変わる場面です。「腰が痛い」と感じていても、寝返りや片脚立ちでお尻・恥骨に痛みが出るなら、骨盤帯痛の特徴を含んでいる可能性があります。24

ただし、痛む場所だけで自己診断はできません。腰痛と骨盤帯痛は併存することもあり、医療者は問診、動作、痛みを再現する複数の検査を組み合わせて判断します。2

なぜ妊娠中に痛みが起こるのか

よく聞くのが、「ホルモンで骨盤が緩むから痛くなる」という説明です。

確かに、妊娠中にはホルモン、靱帯の性質、姿勢、身体にかかる負荷、筋肉の働き方などが変化します。お腹が大きくなるにつれて重心や動作も変わり、腰や骨盤まわりの組織に求められる仕事は増えていきます。

一方で、ホルモンの変化や関節の動きやすさだけで、誰に痛みが出るかを十分に説明できるわけではありません。現在は、身体的な変化に加え、過去の腰痛、睡眠、活動量、負荷のかかり方などが重なる多因子の問題として考えるのが妥当です。23

「骨盤がずれた」「骨盤が開いた」だけで説明し切らないことが大切です。この説明に偏ると、必要以上に動くことが怖くなったり、ベルトで骨盤を締めれば解決すると考えたりしやすくなります。

起こりやすさに関係する要因

骨盤帯痛では、妊娠前からの腰痛歴や、過去の骨盤外傷が比較的一貫したリスク要因として報告されています。2

一方、年齢、身長、体重など、本人が簡単には変えられない要素だけで痛みが決まるわけではありません。痛みが出た時に「自分の身体が弱いから」と考える必要もありません。

骨盤帯痛は妊婦の約20%にみられるとするガイドラインもあり、珍しい症状ではありません。2 しかし、「よくあること」と「我慢するしかないこと」は別です。日常生活や睡眠に影響するなら、早めに産科の主治医・助産師へ伝え、必要に応じて産科領域に詳しい理学療法士へ相談する価値があります。

“妊娠中の腰痛”として様子を見ない方がよいサイン

妊娠中の腰痛の多くは筋骨格系の問題ですが、別の病気や産科的な問題が隠れる場合もあります。次の症状を伴う場合は、セルフケアを続ける前に、産科の主治医や助産師へ連絡してください。

  • 発熱、悪寒、強いだるさがある
  • 腟からの出血、規則的なお腹の張り、破水が疑われる症状がある
  • 排尿時の痛みや、脇腹から背中にかけての痛みがある
  • 転倒や事故のあとから強く痛む
  • 脚に力が入りにくい、しびれが急に強くなった
  • お尻・陰部まわりの感覚が鈍い

特に、脚やお尻・陰部の感覚が失われる場合は、緊急の評価が必要です。5 ここは「妊娠中だから」と自己判断せず、速やかに医療機関へ相談してください。

まとめ

  • 妊娠中の痛みは、腰痛と骨盤帯痛を分けて考える
  • 寝返り、階段、片脚立ちでお尻や恥骨が痛む場合は、骨盤帯痛の特徴を含むことがある
  • 原因は「骨盤の緩み」だけではなく、多くの要因が関係する
  • 生活や睡眠に支障が出るなら、我慢せず早めに相談する

大切なのは、痛みの名前を自分で決めることではなく、「どこが、どの動作で、どの程度痛むか」を整理することです。その情報が、運動・生活動作の調整・骨盤ベルトなど、次の対策を選ぶ手がかりになります。

次回は、妊娠中の腰痛・骨盤帯痛に対して、運動や日常生活の工夫、骨盤ベルトにどこまで効果が期待できるのかを整理します。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。妊娠経過や症状には個人差があります。強い痛みや気になる症状がある場合は、産科の主治医・助産師などに相談してください。

参考文献

  1. Wu WH, et al. Pregnancy-related pelvic girdle pain (PPP), I: terminology, clinical presentation, and prevalence. Eur Spine J. 2004;13(7):575-589. doi:10.1007/s00586-003-0615-y. PubMed
  2. Vleeming A, et al. European guidelines for the diagnosis and treatment of pelvic girdle pain. Eur Spine J. 2008;17(6):794-819. doi:10.1007/s00586-008-0602-4. PubMed
  3. Daneau C, et al. Mechanisms Underlying Lumbopelvic Pain During Pregnancy: A Proposed Model. Front Pain Res. 2021;2:773988. doi:10.3389/fpain.2021.773988. PMC
  4. Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. Pelvic girdle pain and pregnancy. RCOG
  5. National Health Service. Back pain in pregnancy. Reviewed January 10, 2024. NHS
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