#10 妊娠中の腰痛セルフエクササイズ|理学療法士が考える安全な3種目

この記事は9分で読めます。

妊娠中に腰や骨盤まわりが痛くなると、「何か体操をした方がいいのかな」と考える方は多いと思います。

ただ、インターネットで検索すると、骨盤を締める体操、腰を伸ばすストレッチ、体幹トレーニングなど、かなり多くの方法が出てきます。どれを選べばよいのか、かえって分かりにくいのが正直なところです。

理学療法士の立場から先にお伝えすると、妊娠中の腰痛に対して、全員に共通して最も効果的な1種目は分かっていません。

大切なのは、種目名よりも「どの動作で痛むのか」「運動後に症状がどう変化したか」を確認することです。

今回は、妊婦健診で特別な運動制限を受けていない方を対象に、自宅で試しやすい3つのセルフエクササイズを紹介します。

妊娠中の腰痛と骨盤帯痛の違いは、「妊娠中の腰痛はすべて同じではない」で整理しています。痛む場所や特徴が分からない方は、先にこちらをご覧ください。

目次

運動の効果はある。ただし、種目の優劣までは分からない

2019年の系統的レビュー・メタ解析では、妊娠中に運動を行った人は、行わなかった人と比べて腰痛・骨盤帯痛の強さが小さくなる傾向が示されました。一方で、痛みが起こる人の割合そのものは明確に減っていません。1

また、これまでの研究では、有酸素運動、筋力トレーニング、骨盤底筋運動、姿勢や生活動作の指導などが組み合わされています。プログラムの内容や頻度も研究ごとに異なり、「腹筋運動だけ」「ストレッチだけ」といった単独種目の効果を切り分けるのは困難です。12

実際、12週間の運動プログラムで腰骨盤部痛が減った研究がある一方、痛みの有無には差がなく、休職率だけが低下した研究もあります。56

運動は「決まった形を正しくこなす治療」ではなく、痛みを増やさずに動ける範囲を保つ手段として考える方が現実的です。

始める前に、痛みの基準を決めておく

運動を始める前に、現在の痛みを0〜10で確認します。0は痛みなし、10は想像できる最も強い痛みです。

妊娠中の腰痛・骨盤帯痛には、全員に当てはまる「運動中は何点まで」という基準はありません。そこで、自宅で行う場合は安全側に考え、次の反応を目安にします。

  • 運動中に痛みが急に強くならない
  • 終わったあと、痛みが開始前と同程度か軽くなっている
  • その日の夜や翌朝まで悪化が残らない

運動中に少し張る程度で、終了後すぐ元に戻るなら、必ずしも中止する必要はありません。ただし、痛みが一段階上がったまま戻らない場合は、回数・動く範囲・姿勢のいずれかが合っていません。

まずは5回から始めます。最初から「10回を3セット」と決める必要はありません。

セルフエクササイズ1|椅子に座って骨盤を前後に動かす

長く座ったあとに腰が固まりやすい方や、腰を少し動かすと楽になる方に試しやすい運動です。

  1. キャスターのない安定した椅子に浅く座り、両足を床につける
  2. 息を吐きながら、腰を軽く丸める方向へ骨盤を後ろに傾ける
  3. 息を吸いながら、骨盤を起こして楽な位置へ戻す
  4. ゆっくり5〜10回繰り返す

目的は、骨盤を正しい位置へ矯正することではありません。同じ姿勢で固まった腰骨盤部に、小さな動きを入れることです。

胸を大きく反らしたり、お腹を強くへこませたりする必要はありません。呼吸を止めず、動かして気持ちよい範囲にとどめます。

セルフエクササイズ2|四つ這いで後方へ重心を移す

立って前かがみになると腰がつらい方に、股関節を使って身体を動かす感覚を確認しやすい運動です。

  1. 手を肩の下、膝を股関節の下に置いて四つ這いになる
  2. 腰を強く反らしたり丸めたりせず、呼吸しやすい位置を探す
  3. お尻をゆっくり後ろへ引き、痛みが出る手前で止める
  4. 元の位置へ戻り、5〜10回繰り返す

お腹が苦しくないよう、膝の幅は調整して構いません。ただし、膝を広げた時に恥骨まわりが痛む場合は、この運動を続けないでください。手首がつらければ、机やソファに手をついた立位へ変更します。

動く範囲を広げることより、腰だけに負担を集めず、股関節と一緒に動けることを優先します。

セルフエクササイズ3|椅子からの立ち座り

立ち上がりや階段など、日常生活で脚に力を入れる場面がつらい方に向いています。腰だけでなく、股関節と膝を使って身体を支える練習です。

  1. 安定した椅子に座り、両足を無理のない幅に置く
  2. 身体を少し前へ傾け、両足で床を押して立ち上がる
  3. 息を止めず、必要なら机や手すりに手を添える
  4. ゆっくり座り、まず5回行う

立ち上がる時に左右どちらかへ大きく寄らないようにします。ただし、完全な左右対称を目指して身体を固める必要はありません。

お尻や恥骨に痛みが出る場合は、椅子を高くする、回数を減らす、手で支える、の順に負荷を下げます。それでも痛む場合は中止します。

3種目すべてを行う必要はない

セルフエクササイズは、全部こなすことが目的ではありません。

  • 座ったあとに腰が重い:椅子での骨盤前後運動
  • 前かがみや床の物を取る動作がつらい:四つ這いでの重心移動
  • 立ち上がりや脚の疲れが気になる:椅子からの立ち座り

この中から、終わったあとに動きやすさが少しでも改善するものを1〜2種目選べば十分です。

5回で問題なければ、数日かけて8〜10回へ増やします。回数を増やす前に、呼吸を止めていないか、翌日に悪化していないかを確認してください。

自己流で避けたい4つのこと

  • 痛みを我慢して強く伸ばす:可動域を広げるほど改善するとは限りません
  • 片脚立ちを繰り返す:骨盤帯痛では、左右差の大きい運動が症状を増やすことがあります
  • お腹を固めたまま息を止める:最大努力ではなく、会話や呼吸ができる強度で行います
  • 悪化しても同じメニューを続ける:種目が悪いのではなく、今の症状や負荷量に合っていない可能性があります

妊娠が進むと、仰向けで気分が悪くなる方もいます。今回は妊娠週数にかかわらず試しやすいように、座位・四つ這い・立位の運動を選びました。どの姿勢でも、めまい、吐き気、息苦しさが出たら中止してください。47

運動を中止して、産科へ連絡する症状

次の症状が出た場合は、腰痛の体操を続ける場面ではありません。運動を中止し、産科の主治医・助産師へ連絡してください。7

  • 腟からの出血や破水が疑われる液体の流出
  • 規則的で痛みを伴う子宮収縮
  • 運動前から続く息苦しさ、胸痛、めまい、失神
  • 強い頭痛
  • ふくらはぎの痛みや腫れ
  • バランスに影響する筋力低下

また、発熱、排尿時痛、急に強くなったしびれ、陰部まわりの感覚低下などがある場合も、セルフエクササイズの対象ではありません。

続けても変わらない時は、運動不足とは限らない

1〜2週間続けても生活が楽にならない、歩行や寝返りが次第につらくなる、どの運動でも痛みが増す。この場合は、運動量を増やすより、評価を受ける方が先です。

骨盤帯痛では、痛む場所だけでなく、片脚立ち、寝返り、歩行など、どの負荷で症状が再現されるかを確認します。ガイドラインでも、一律のメニューではなく、評価に基づく個別の運動が推奨されています。38

運動を増やしても変わらない時に必要なのは、努力ではなく、負荷のかかり方を見直すことです。

産科の主治医・助産師へ相談し、必要に応じて産科領域に詳しい理学療法士の評価を受けてください。

まとめ

  • 妊娠中の腰痛に、全員共通の「最も効く1種目」は分かっていない
  • 運動前後と翌朝の症状を比べ、悪化が残らない負荷に調整する
  • 最初は1〜2種目を5回から始める
  • 痛みを我慢して、可動域や回数を増やさない
  • 出血、破水が疑われる症状、胸痛、めまいなどがあれば中止して産科へ連絡する

セルフエクササイズの目的は、骨盤を正しい位置へ戻すことではありません。その日の身体に合わせて、痛みを増やさずに動ける選択肢を残すことです。

骨盤ベルトや日常生活の調整については、「妊娠中の腰痛に何ができる?」で詳しくまとめています。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・運動処方の代わりになるものではありません。妊娠経過、合併症、運動制限の有無には個人差があります。運動の開始に不安がある場合や、痛みが強い場合は、産科の主治医・助産師へ相談してください。

参考文献

  1. Davenport MH, et al. Exercise for the prevention and treatment of low back, pelvic girdle and lumbopelvic pain during pregnancy: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2019;53(2):90-98. doi:10.1136/bjsports-2018-099400. PubMed
  2. Liddle SD, Pennick V. Interventions for preventing and treating low-back and pelvic pain during pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(9):CD001139. doi:10.1002/14651858.CD001139.pub4. PubMed
  3. Vleeming A, et al. European guidelines for the diagnosis and treatment of pelvic girdle pain. Eur Spine J. 2008;17(6):794-819. doi:10.1007/s00586-008-0602-4. PubMed
  4. Mottola MF, et al. 2019 Canadian guideline for physical activity throughout pregnancy. Br J Sports Med. 2018;52(21):1339-1346. doi:10.1136/bjsports-2018-100056. BJSM
  5. Mørkved S, et al. Does group training during pregnancy prevent lumbopelvic pain? A randomized clinical trial. Acta Obstet Gynecol Scand. 2007;86(3):276-282. doi:10.1080/00016340601089651. DOI
  6. Stafne SN, et al. Does regular exercise during pregnancy influence lumbopelvic pain? A randomized controlled trial. Acta Obstet Gynecol Scand. 2012;91(5):552-559. doi:10.1111/j.1600-0412.2012.01382.x. PubMed
  7. American College of Obstetricians and Gynecologists. Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period: ACOG Committee Opinion, Number 804. Obstet Gynecol. 2020;135(4):e178-e188. doi:10.1097/AOG.0000000000003772. PubMed
  8. Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. Pelvic girdle pain and pregnancy. RCOG
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